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広島高等裁判所 昭和30年(う)322号 判決

控訴人 被告人 古田幸利

弁護人 椎木緑司

検察官 好並健司

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中五〇日を刑期に算入する。

理由

弁護人椎木緑司及び被告人の控訴の趣意は記録編綴の各控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

一、弁護人の控訴趣意第一点の(一)及び被告人の控訴趣意中事実誤認の論旨について

論旨は、原判示第一の詐欺の点は、当初被告人は真実該自転車を借用の意思で借受けたものであつて、相手方を欺罔して騙取するつもりはなかつたのであるが、借受後において始めて領得の意思を生じ新井徳弘に質入処分するに至つたものであるから、右は横領罪となるは格別詐欺罪を構成しないというのであるけれども、被告人は原審公判廷においても右詐欺の意思のあつたことを自白しているものであり、その他原判決挙示の証拠によれば、右詐欺の事実を認めるに十分であつて、記録を調査するも原判決の認定に誤があるとは認められない。論旨はいずれも理由がない。

二、弁護人の控訴趣意第一点の(二)について

論旨は、原判示第二の窃盗の点は横領又は詐欺罪となるは格別窃盗罪は構成しないというのであるけれども、原判示挙示の証拠によれば、当時被告人は所論のように、顧客の如く装い古物商山沢金一方店舗に到り、同人に対し上衣を見せてくれと申し、同人が店の右側にかけてあつた国防色上衣を下して見せると、被告人はこれに手を通して着たところ、あんたには小さいようだというと、これ位はせわないといつたが、一寸小便に行つて来ると申しこれを着たまま表へ出て逃走したものであることが明らかであるところ本件は山沢金一が右のように上衣を被告人に交付したのは、被告人に一時見せるために過ぎないのであつて、その際は未だ山沢の上衣に対する事実上の支配は失われていないものというべく、従つて被告人が右上衣を着たまま表へ出て逃走したのは即ち同人の右事実上の支配を侵害しこれを奪取したものに外ならないと認むべきものである。従つて原判決が被告人の右の所為を以て窃盗罪に問擬したのは正当であり、これを以て横領又は詐欺罪であるというのは当らない。論旨は理由がない。

三、弁護人の控訴趣意第二点及び被告人の控訴趣意中量刑不当の論旨について

記録を調査して諸般の情状を検討し、本件犯行の態様、被告人の犯歴等を考慮するときは、所論の事情を参酌しても原判決の科刑は相当であつて重過ぎるものとは認められない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条第一八一条第一項但書刑法第二一条に各従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 柴原八一 判事 尾坂貞治 判事 池田章)

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